代表取締役社長
小寺 信也
1984年トヨタ自動車に入社。営業などの経験を積んだ後、経営企画部BR明日のトヨタ準備室主査、営業企画部中長期計画室室長、BR次世代環境車事業室室長、営業企画部部長、新興国企画部部長、常務役員、第2トヨタPresident、東アジア・オセアニア本部本部長などを歴任。「トヨタウェイ2001」策定プロジェクト、トヨタIMVプロジェクト、テスラとの共同開発プロジェクトなどを担当。2018年より、トヨタファイナンシャルサービス取締役上級副社長(現在も兼任)。2019年1月、株式会社KINTOの設立に携わり代表取締役社長就任(現任)。2021年4月、KINTOテクノロジーズ株式会社の設立に伴い現職。
KINTOテクノロジーズはもともと、トヨタファイナンシャルサービス内にある部署のひとつでした。しかし、2021年4月に同社から離れ、ひとつの企業となっています。小寺さんはなぜ当社を独立した組織にしようと考えたのでしょうか。
小寺:理由は3つあります。「KINTOの事業のみに縛られる集団ではもったいないと感じたこと」「エンジニアやクリエイターにとって働きやすい環境を用意するために、従来の枠組みとは異なる、独立した組織体系が必要だったこと」「クリエイティブな開発組織を目指したかったこと」です。
KINTOテクノロジーズは当初、KINTOの事業に必要なプロダクトやサービスを開発するためのチームとして、立ち上げられました。当時から「ベンダーに頼らず、すべてを内製で開発できる組織になること」を目標に掲げ、技術力の高いエンジニアを積極的に採用してきた背景があります。
少しずつメンバーが増え、体制が整ってくるなかで、「今の私たちなら他のIT企業にも引けを取らない仕事ができるのではないか」という想いが生まれました。分社化を考えたのは、KINTO以外のトヨタグループの様々な案件を手掛けたいということからです。
一方で、チームが内製開発組織として力を発揮し続けていくためには、エンジニアやクリエイターが働きやすい環境を作ることも急務でした。トヨタグループには、KINTOテクノロジーズとは別にシステム開発の企業が存在していますが、同社はベンダーに外注することで開発を行っています。そのため、当時はグループ内にエンジニアやクリエイターを正しく評価できる人事制度がなかったのです。
また、そのような企業文化のなかでは、当時芽生えつつあったKINTOテクノロジーズのクリエイティビティを守れないのではないかという懸念もありました。これらすべてを考慮した結果、株式会社KINTOテクノロジーズとして設立する判断に至りました。
小寺さんはKINTOテクノロジーズが内製開発組織であることのメリットをどのような点に感じていますか?
小寺:プロダクトとサービスのクオリティアップを担当者が本気で考えてくれる点だと思います。たとえば、開発を外注するケースでは、発注元と発注先のあいだに利害関係が発生するため、担当者が問題点に気づいたとしても申告してくれない可能性がありますよね。発注先からすれば、発注元の指示どおりに開発を行うことで売上が立つわけですから、当然と言えば当然です。
一方で、内製開発では、社内のメンバーが担当者となるため、事業や目的に精通している場合が多く、仕様・設計をブラッシュアップするための議論が生まれやすいです。実際にKINTOテクノロジーズでは、問題点に気づいたエンジニアが改善案を出し、そのアイディアが採用された結果、クオリティアップにつながる例が数多くあります。
私は「グループの事業とエンドユーザーをつなぐ役割を担うのが、KINTOテクノロジーズという企業である」と認識しています。内製開発によってプロダクトやサービスの質が向上することは、エンドユーザーの体験の良化と同義なのです。そのように考えれば、KINTOテクノロジーズが内製開発組織であることの価値を理解していただけるのではないでしょうか。
――株式会社KINTOとKINTOテクノロジーズのあいだに、発注元や発注先の関係性が生じることはありませんか?
小寺:チームが立ち上げられた当初は、まるで発注元と発注先のような関係性となってしまうこともありました。私はそのような場面に出くわすたび、両者に改善するよう忠告していましたね。その甲斐もあり、最近では少しずつ問題が解消されてきました。KINTOテクノロジーズを設立から3年が経ち、株式会社KINTOとKINTOテクノロジーズの関係は、ほぼ対等と言えるような状況になっています。
――同様の課題を抱えている大企業は多くあるかと思います。グループ企業同士であってもそのような関係性となってしまいかねない理由をどのように考えていますか?
小寺:仕組みの不備が大きいと感じます。こうしたケースでは多くの場合、手を動かす側の組織が要件定義の場に参加しないまま、プロジェクトが進行していきます。一方で、発注元の組織はシステム開発に知見がなく、エンジニアにどのような情報を提供すればよいのかも理解できていないケースも少なくありません。だからこそ、対等に議論できる関係性が必要なのですが、そのような仕組みが当たり前となっている企業では、それもなかなか期待できないわけです。
昨今では、カルチャーといった言葉に注目が集まっています。しかし、それらがメンバーや関係各社に浸透するには、長い時間を要するはずです。大企業に属する開発組織がそれだけの歴史を持っているかと言われれば、おそらく答えはNoですよね。最もキャリアが長い人でも、組織立ち上げからの数年しか在籍していないなかで、本当に大切になるのは関係者間で十分にコミュニケーションを行うための仕組みなのではないかと感じます。この点をないがしろにしている組織が多いのではないでしょうか。
小寺さんはしばしば社内のエンジニアやクリエイターを「魔法使い」と表現します。なぜ小寺さんは彼らをそう呼ぶのでしょうか?
小寺:過去のエピソードが関係しています。KINTOテクノロジーズが「KINTO かんたん申し込み」アプリの開発を行っていたとき、あるエンジニアが突然私の部屋にやってきて「小寺さん、こんなアプリを作ってみたんですけど、どう思いますか?」と、スマートフォンの画面を見せてきました。そこにあったのは、ユーザビリティが配慮されたとても魅力的な機能でした。
私はその場で実装する判断を下し、どのくらいの期間で開発したのかを彼に尋ねました。すると彼は「2週間で作った」と答え、さらに「あと2か月あればリリースできる」と付け加えたのです。
トヨタグループでは、背景や必要性、コスト、リードタイムなどを盛り込んだ膨大な資料を作成し、会議の場で全方位から承諾を得たあと試作へと移行するのが慣例になっています。しかし、彼は2週間でプロトタイプを開発し、あと2か月あればリリースできると言いました。もちろんそこには、事業の規模の大きさも関係しています。自動車の開発は数百億を上回る投資が必要となるため、簡単には失敗できません。一方で、私たちの場合は、かけた工数が無駄になったり、アプリのユーザーレビューが少し悪くなったりする程度です。ならば、やらない理由はないですよね。
過程で少し苦労したこともあり、最終的には実装まで3か月ほどかかってしまいましたが、そのように魅力的な機能を数か月という短い開発期間でリリースできたことは、まるで魔法のようでした。以来、私はKINTOテクノロジーズのエンジニアやクリエイターのことを「魔法使い」と表現しています。
――そのように迅速にプロジェクトが進行した背景には、従来の枠組みに囚われない小寺さんの考え方や、KINTOテクノロジーズならではの組織風土による影響もあったのではないかと感じました。
小寺:私はトヨタグループの役員になるまでの12年間に14の部署を経験しています。短いものは3か月、長いものでも1年ほどで組織を転々としてきました。そこには私の飽きっぽい性格も悪い意味で影響しています。要するに、私は生粋のプロジェクト屋なのです。
だからこそ、良いものは良い、悪いものは悪いと、合理的な態度で組織運営に携わるよう努めてきました。KINTOテクノロジーズのメンバーもそのようなマインドをうまく受け継いでくれているような気がしています。保守的な方には、ルールを守らない人間のようにも映るでしょうね。けれども、大きな推進力を得るためには必要な考え方であると自負しています。
小寺さんはKINTOテクノロジーズという組織が生み出せるバリューをどのように捉えていますか?
小寺:トヨタグループのプロダクトとエンドユーザーをつなぐ接点を生み出せることが、私たちの最大の価値だと考えています。
トヨタグループは現在、「クルマをつくる会社」から「モビリティカンパニー」へ移行を目指していますモビリティカンパニーとは、これまでは関わることのなかったさまざまな会社と手をつなぎ、仲間となり、今よりも地球や社会、人にやさしく、移動の自由と楽しさにあふれた“モビリティ社会“を創造する会社です。これまでもこれからも自動車が中心的役割を担っていくことは変わりませんが、一方で、その内訳は、自動運転や電気自動車、カーシェアリングなど、変化の兆しを見せています。
「TOYOTA WOVEN CITY」という取り組みをご存知でしょうか?静岡県裾野市を舞台に、移動に関連する新たな仕組み・サービスの実証実験を行うこのプロジェクトでは、「幸せの量産」「モビリティの拡張」をビジョンに掲げ、「未来の当たり前」の発明を目指してきました。そのような社会の実現に必要となるのが、ユーザーとの接点になるITプラットフォームです。KINTOテクノロジーズはトヨタグループの一員として、そうしたプロダクトやサービスの開発にもかかわっています。
自動車業界のキープレイヤーの多くは「connected technology」という言葉をDXのテーマに掲げていますが、この「connected」とは、「自動車とつながりつづけて付加価値を提供する」という意味であり、「人とつながって付加価値を提供する」という意味ではありません。Software Defined Vehicle(ソフトウェアが車の性能・価値を決める)という言葉が持て囃されている現代だからこそ、エンドユーザーとの接点を創出するITプラットフォームには、これまで以上に価値が見出されていくはずです。そのような場において大きな付加価値を生み出すことが、KINTOテクノロジーズのコアビジネスであり、当社に求められる役割でもあるのです。
モビリティカンパニーへと進化するトヨタグループのなかで、デジタル領域の担い手であり続けたい。それが私の願いです。これからもリーダーシップを持って、KINTOテクノロジーズというクリエイティブ集団をあるべき方向に導いていきたいですね。
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